記憶の形をした3つの小曲

SPIRAL GARDENの為の仮設的レスタウロ

1991@東京 スパイラル

「記憶の形をした3つの小曲」は東京表参道にあるスパイラルビルで開催されたアートコンペ、ジャパンアートスカラシップのグランプリ作品として実現した。観客が内部を巡る体験型のインスタレーション作品で、スパイラルという建物のコンセプトや空間構成を作品のテーマに取り込んでいる。

吹抜け上部から見下ろす。既存のスパイラルスロープとの間には幕を張り、外部からの視点は排除した。中央部分は桧のチップで定期的に雨が降る。 photo : Masahiro Soga(このページ全て)

「サティ、君はもう少しフォルムの感覚というものをもつべきじゃないのかね?」エリック・サティは、友人であるドビュッシーからこう忠告された。この形式観をもつべきだとする意見に対しサティは「梨の形をした3つの小曲」という曲名で返答したと言われる。これはサティの形式に対する考え方を示すエピソードであり、この考え方が芸術の形式や領域を横断しようとする今回の作品の姿勢とオーバーラップする。

スパイラルガーデンという4層吹抜けの空間はエントランス・カフェ・ギャラリーと連続した空間にあり、お茶を飲みながら、あるいはショッピングをしながら絵や彫刻が楽しめる。これはスパイラルの設計コンセプトが「全く別種の活動を空間的に併存させて、新しい楽しみ方を見いだす」ことだったからだ。設計者はアートの日常化を図ったのだ。

そのような空間に対するこの作品の目的は「カフェ>アトリウム」という完成されたコンテクストを逆転させることにある。そこでこの作品をスパイラルのレスタウロとして捉え、“SPIRAL GARDENの為の仮設的レスタウロ”と副題をつけた。

都市に対して開かれ、都市から見られる位置にあるアトリウムが、 都市を見る位置へと反転させられる。その操作によってつかみ所のない都市はあるヴィジョンを示すだろう。都市はあなたの日常であり、あなた自身でもある。すなわち、あなたは自我と対峙する。

コンセプトドローイング

ON Time
雨音が空間を満たし、ガラスを伝って流れる雨にモニターのノイズが反射する。縁側の床の3つのモニターには「足を水に浸してみませんか?」というメッセージが流れる。
OFF Time
雨が止み、カフェの音や通りの風景へと意識が広がる。一つだけ点いているモニターには「もう少しよろしいですか?少しお話しましょう。」というメッセージが出ている。
踊り場のディテール
檜チップの庭から躙り口をみる
屋根の波板を雨が叩く
カフェから階段越しにモニターを見る。モニターがガラス板に反射して外部から内部は見えない。内部を巡った観客はこの階段を降りて都市へ帰る。

インスタレーション図面