ヴィソン
食と健康をテーマとした商業リゾート施設
2021@三重県多気町
ヴィソン(VISON)は三重県のほぼ中央部に位置する多気町にあり、伊勢神宮から車で20分ほどの勢和多気ICに隣接する。多気町に所縁のある本草学をベースにした薬湯施設(本草湯)を中心に、ホテルや商業エリア、農園エリアなど多種多様なコンテンツで構成した商業リゾート施設である。
始まりは多気町からのお声がけにより、食と健康をテーマに施設を作りたいとのことで、2013年に始めて現地を訪れた。高低差200m、ディズニーランド2面分という、見渡してもどこまでが敷地なのかよく分からないスケールを前にして、狭い意味での経済効率優先ではいけないと感じた。
自然環境を大きく改変するからには人々が希望を持てるような、地域の個性が感じられる場所にしたい。効率を最優先に均質化した施設を作ろうとすると土地の豊かさを見失いかねないからだ。山を崩し谷を埋める行為は、素材の旨みを引き出す料理のように、そこにある個性の称揚に辿り着かなければならない。地域への愛着や帰属意識につながる風景は子供達を育む原動力となり、ひいては遠来の客人を惹きつける魅力にもつながる。地方創生を課題とする施設構想にあたっては、建築に留まらず産業や観光、人材育成まで視野に入れた重層的な風景価値の創出が必要だと考えた。
スケッチ
そのためマスタープランは機能集約型ではなく、できるだけ山に沿って建物を分棟化し、駐車場も分散させて集落的な施設配置を指向した。そうして断片化した要素を広場や路地でつなぎ、多様なシークエンスを獲得しようと考えた。施設内容は次々に変更され、調整はシシュポス神話のごとくであったが、もとの地形を生かした風景計画の基本方針は初期のスケッチから変わっていない。
風景の骨格
道路勾配と眺望の関係が最適化できる宅盤の位置を探りながら風景の骨格を整えていった。風景という観点から土木と建築を総合的に検討し、ユニークなランドスケープを目指した。法規上要求される森林帯を風景計画に織り込んでおり、植物の成長と共に深みのある風景に育つことを期待している。
中間領域
軒下や縁側など、建物内外の中間領域をデザインテーマとした。遠くからでも活気が感じられるよう、人々が楽しむ姿を風景化し、室内外に視線を通すことで明るい奥行き感を生み出そうとした。
雨の風景化
雨の風景化にも取り組んでいる。日本の自然を特徴づける雨も、商業施設としては集客しにくく厄介である。そこで、基本的に樋を排して雨垂れを見せたり、遊びを散りばめて雨天時の来場が楽しくなるよう心がけた。
メンテナンス
多くの建物で無塗装の木材を使用している。 伊勢神宮の式年遷宮をモデルに環境と建物を連続的に捉え、メンテナンスを山林の保護育成にまで拡張して考えようという試みである。と同時に、木材が朽ちゆく時間を商業施設のデザインに取り入れる挑戦でもある。
サイン
ヴィソンのサインは環境に溶け込む存り様を模索した。それは背景に埋もれることではない。借景のような考え方で、むしろ環境を取り込みながら注目を集める。ヴィソンのコンセプトを示すサインであり、看板が自然を覆い隠してしまう景観問題に対するひとつの提案でもある。
通信アンテナ
サインと同様に通信アンテナなども景観に対するインパクトが大きい。ヴィソンではそうした問題意識から通信アンテナもデザインした。ここまでシンプルになれば点景として、あるいは建築とのバランスを考えて配置することも可能だと思う。