マルシェ ヴィソン
ヴィソンの地域連携を代表する商業施設
2021@三重県多気町
マルシェヴィソンが「A’ DESIGN AWARD 2024」の「Building and Structure Design Category」において、プラチナ賞を受賞しました。
Marche Vison Market by Tomoya Akasaka
「A’ Design Award & Competition」はイタリアで行われている世界最大級の国際デザインコンペティションです。国際的にも著名な学者、ジャーナリスト、デザイナー、経営者たちによる厳しい審査を受け、受賞者が選ばれています。賞には5つのランクがあり、優秀な作品から順にプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの賞が、全デザイン分野に対して贈られます。
マルシェヴィソンは食を中心とした地域連携のプラットフォームである。一般的な産直市場に比べて飲食体験の比重が高く、地域食材の販売のみならず、シェフのプロデュースによる新しい魅力の発信や地元の高校等と連携したイベントの開催、さらにはアグリツーリズム拠点としての役割も視野に、地域イノベーションの場として活用されることを企図している。食と健康をテーマとし、三重に縁の深い本草学をコアコンセプトに据えるヴィソンにあって、マルシェヴィソンで扱う食材の物語性は広く三重県全域とつながる。山海にわたって想定しうる多様なアイディアをおおらかに覆い、様々な思いをひとつにまとめ方向づけるシンボルとして、天と地をつなぐ大屋根を架けた。
大屋根
雨(アクア)と陽(イグニス)が天から地に注がれ、豊かな食材を育む。その流れの中にある人間の存在を大屋根で表現した。宇宙と交信するかのような大屋根は大地に沿った三次曲面で、雨に意識が向くよう、軒先の連続性や雨受けをデザインしている。また、大屋根を支えるフレームは伊勢神宮の外宮に鎮座する茜社の鳥居をモチーフにした。五穀豊穣・大漁満足・商売繁盛を祈念するといい、三重県の食材を扱う施設にふさわしい。
風景の骨格
ヴィソンでは山の風景を作るため、できる限り高低差を活かした開発を目指した。マルシェヴィソンにおいても、立体的に立ち上がる風景の豊かさを獲得しようとしている。建物は長手方向で4棟に分かれるが、階段状のスラブをスロープでつなぎ、フレームのピッチを連続的に揃えることで、ひとつづきの空間として認識できることにこだわった。短手方向でも大地から大屋根へ連続する勾配が視線を空まで導き、伸びやかな流れを生む。
二つの時間層
商業は時代に応じて変化する宿命にあり、将来にわたってデザインをコントロールすることは難しい。そこで、風景と商業のタイムスパンを切り離そうと考えた。それらを大屋根とボリューム群の二つのレイヤーに分けることで、自然の時間と共にある「風景価値の醸成」と、常に新鮮さが求められる「商業の機動性」を両立させようとしている。商業は時代と共に変化するが、大屋根はそれを包み、時代を超えていくだろう。
中間領域の建築
マルシェヴィソンは中間領域の建築だ。大屋根は室内外をつなぐ軒が大きくなって連続し、自立したものにも思える。これは三重の気候風土を旬の食材と合わせて楽しむためのアイディアであり、閉鎖型店舗やネット通販に慣れきって忘れがちな季節の身体感覚を大切にしたいと考えた。当然ながら、空調のエネルギー消費は最小限で、環境問題に対するシンプルな回答となっている。
シークエンス
この建物は名古屋方面から訪れた客が最初に出会う建物で、ヴィソンのプロローグとして自然と呼応する雄大な風景を構成するのがふさわしいと考えた。それ故、ヴィソンの中でも特に象徴性を重視した設計となっている。また、ヴィソン全体のマスタープランの観点からすると、この建物は駐車場と商業エリアを結ぶパサージュでもある。長い歩行空間をむしろ歩きたくなるよう、変化に富んだシークエンスで構成した。
ゲニウス・ロキ
少なからず自然環境を改変してしまう巨大開発だからこそ、地霊(ゲニウス・ロキ)が感じられる場所にしたい。狭い意味での経済性を優先した箱モノではなく、地域の環境とつながり、世代を超えて豊かさが感じられる個性的な景観を目指すべきだ。そうした思いから自然環境が引き立つ在り様を追求してきた。中でもサインや照明など、ややもすると商業施設の常識が地域景観の理想と相反するような要素には注意を払った。
故郷の風景
建物の高速道路側は三重県産の木材を使用したルーバーで構成した。それによって車からでも認識できる光のドラマを魅せようと思った。特に日暮れ時、山並みが夕空に霞む時刻の安らぎを大切にしている。室内から漏れ出るような灯りが人の温もりを感じさせ、暮れなずむ山々と呼応する。次世代の人々が故郷の風景を守り育て、その価値を遠来の客人にも共有していただく。そんな好循環を期待している。